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児童精神科医になるには?精神科医との違いや専門資格について解説

子どものこころに関わるさまざまな問題を診察する児童精神科医。

「少し興味はあるけど実態がよく分からない・・・」という精神科医や小児科医、研修医の先生方は意外に多いのではないでしょうか?

そこで本記事では『児童精神科医の働き方や専門資格』について、現役の児童精神科医が説明していきます。

【この記事を書いた人】
 りり 精神科医

・2児子育て中の児童精神科医
・児童精神科医によるケース相談サービス
こどものこころ相談室青い糸」を運営している。

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児童精神科医とは?

児童精神科医とは

児童精神科医とは子ども、主に未成年の心の問題について診療をする科です。

子どもが抱える精神障害や発達障害、不登校、虐待などの心理社会面の問題、養育上の悩みなどを扱います。

具体的には以下のような疾患が対象となります。

  • 神経発達症(発達障害:知的障害、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、学習障害、チック、吃音など)
  • 精神病性障害(統合失調症など)
  • 感情障害(双極性障害、うつ病など)
  • 神経症性障害(不安症、強迫症など)
  • トラウマ/ストレス関連障害(PTSD, 愛着障害、適応障害など)
  • 解離性障害
  • 身体症状症(転換性障害、身体表現性障害など)
  • 摂食障害(拒食症、過食症など)
  • 行動障害(素行症など)
  • その他(パーソナリティ障害、物質使用障害など)

児童精神科 – 岩手医科大学附属病院 様より引用)

施設によって対象年齢が異なる

ただ一口に児童といっても病院や診療所によって対象年齢が異なります。

対象を18歳までとする病院が多いですが、中学生までとする病院、逆に「中学生から受け付けている」という施設もあります。

もう少し詳しくいうと、小児科ベースのクリニックや病院では15歳までなど"上限"があるところが多く、精神科メインだと12歳からなどの"下限"を設定している施設が多いです。

児童精神科医を志しているのであれば、「どの年齢帯の患者の治療にあたりたいのか?」を具体的にイメージして入職施設を選んだ方がいいでしょう。

児童精神科医と成人精神科医の違いは?

児童精神科医と成人を対象にした精神科医(以下:成人精神科医)との違いは次のような点が挙げられます。

  • 診察にしっかりと時間をかける
  • 患者(子供)とのラポール形成が大変
  • 連携や関係者会議が多い
  • 希死念慮の切迫感が強い

診察にしっかりと時間をかける

児童精神科では患者(子供)に加えて親との面接が入るので、診察にしっかりと時間をかけます。

成人精神科診療と比較して、ざっくり2倍以上時間がかかることが多いです。いわゆる5分診療は難しいでしょう。

特に親は心配事が多く、満足するまで話を聞くと30分くらいになります。

また学期ごとテストごとに気分の波が生じるため、「変わりありません」と言ってもらえることが極端に少ないのが特徴です。

患者(子供)とのラポール形成が大変

成人精神科との違いとして次に挙げられるのが、子どもとのラポール形成の難しさです。

精神疾患をもつ成人の患者と比較して子どもは簡単に大人に心を開きませんし、しゃべりません。

流行りのアニメを追っかけるなどして「子ども心を忘れないようにする」「子どもの心をつかむ工夫をする」そういった力を磨く必要があります。

小児科の先生が子どもと打ち解けるためにアンパンマンのグッズを身につけていたりしますが、この点は内科と小児科との違いとも近しいかもしれません。

連携や関係者会議が多い

連携や関係者会議が多いのも特徴です。

児童精神科は患者(子供)の環境調整が大切なので、

  • 家族
  • 学校
  • 教育センター
  • 児童相談所
  • 訪問看護

など多数の連携先があります。

各関係各所とやり取りを行うため診察外での仕事も重要になります。

希死念慮の切迫感が強い

児童精神科では患者に希死念慮があった場合の切迫感がより強いです。(成人の希死念慮に切迫感が無いというわけではありません。)

チェック

希死念慮は「死にたい」と強く思いつつ具体的な方法までは考えていない状態を指します。

未成年をみすみす死なせるわけにはいかないため、10代の摂食障害などではどんなに本人が「死んでもいい」と言ったとしても、こちらが諦めるわけにはいきません。

そのため状況にもよりますが、成人精神科の希死念慮と比較して精神科的な強制入院を検討するハードルは低いと思います。

また親が希死念慮や低体重に危機感を持たない場合、医療ネグレクトとして児相相談所への通告することもあるのが成人と比べた違いになるでしょう。

児童精神科医のやりがい

子どもの成長や症状の改善を間近で見れる

子どもはとても速いスピードで成長していくので、精神疾患を持ちながらも少しずつ、しかし気付けばあっという間に成長していきます。

もちろん児童精神科医としてやれることはやりつつも、子どもの困難を乗り越え回復する力には驚かされることばかりです。

そんな成長を間近で見られることには、この上ないやりがいを感じます。

時間や熱量をかけるからこそ、良くなったとき・成長したときの喜びは計り知れません。

心理療法やケースマネジメントのおもしろさを感じられる

子どもの臨床は薬物療法がメインにはなりにくいため、心理療法・精神療法や、ケースマネジメントがおもしろいと思う人にはぴったりだと思います。

チェック

ケースマネジメントとは?

生活困難な状態になりサポートを必要とする利用者が、必要とされる全ての保健・医療・福祉サービスなどを受けられるように調整をすることを指します。

児童精神科医の中には動機づけ面接、認知行動療法から、精神分析や催眠療法まで、さまざまな心理療法を学んでいる人もいます。

ケースマネジメントも慣れるまでは大変です。

それでも各関係者と協力することも楽しいですし、周囲があきらめているような場合でも「なぜそうなったのか?」とアセスメントし立て直す。こうしたマネジメントには他に無いおもしろさがあります。

児童精精神科医の忙しさはどれくらい?

児童精神科医の忙しさは『外来のみの施設』か『病棟ありの施設』かで変わってきます。

外来のみの施設の場合

初診が長く再診も長いです。診察に時間がかかるので他の患者さんを短く診て特別に時間を取ったり、残業したり…となってしまいがち。

中には昼休みを削って診療する先生もいます。外来メインの児童精神科医の先生は、自己犠牲の精神が強い先生が多い印象です。

そのため現状は単価も安いです。

ただ厚生省も児童精神科医の不足を懸念しているのか、児童思春期支援指導加算が新設されました。今後は診療報酬が引き上げられる傾向にあります。(参考:厚生労働省|令和6年度診療報酬改定の概要 児童思春期支援指導加算の新設

病棟ありの施設の場合

入院施設をもつ児童精神科病院は2022年時点で全国50施設程度しかありません。(参考:磐田・福田西病院が「児童思春期病棟」開設へ|静岡新聞DIGITAL

施設自体が少ないので比べるのが難しいのですが、患者の重症度によって忙しさは変わります。

保護室の数などで重症度の高い患者数は概ねはかれるでしょうし、この辺りは普通の精神科病棟と同じような気もします。

ただ児童は夜は寝てくれるので、当直の忙しさはそれほどではありません。私が経験した限りではほぼ寝当直でした。

オンコールは一般の精神科と同じく、精神保健指定医を持っていることが前提の業務になるかと思います。(精神保健指定医とは?

チェック

精神保健指定医とは?

重度の精神障害を持つ患者の医療保護入院、隔離、身体拘束など一定の行動制限や、措置入院の解除判断を行う精神科医で、職務上「法律に基づいて患者を強制入院させる」権限を持っています。

児童精神科医になるには?

児童精神科医になるには次のようなキャリアが考えられます。

  • 専攻医期間中に研修を始める
  • 専門医取得後に研修を始める
  • 小児科からの転科

専攻医期間中に研修を始める

児童に一直線。精神科の専攻医期間中に児童精神科の研修を始めるパターンです。

初期研修医を終えたら精神科専攻医となり早々に児童精神科病院で働くため、成人精神科の研修期間の方が短いです。

デメリットとしては子供の患者に薬物療法を行う機会が少ないため、精神科薬を使い慣れない点でしょうか。

一方、家族関係や発達の視点から診るような『児童精神科医独特の視点』は早期から養われます。

専門性は高くなりますが、いち早く児童精神科医として大成したいのであればおすすめのルートです。

専門医取得後に研修を始める

精神科専門医を取ってから児童精神科の研修を始めるパターンです。

精神疾患の治療に慣れているので、成人が基準にあった上で「子どもではどうするか?」と考えます。

児童の患者が成人した後の経過を理解しているので、治療に見通しを持ちやすいといえるでしょう。

患者にはややドライに接する先生が多い印象です。

小児科からの転科

小児科専門医を取ってから児童精神科の研修を始めるパターンです。

そのまま児童精神科医になって精神保健指定医を取得する場合は、成人の症例のレポートが必須になるため、一般の精神科病院の研修もマストになってきます。

一方、ある程度まで児童精神科を学んだら小児科に戻ることもできるため、柔軟にキャリア形成していくことが可能です。

精神科医側から見ると、熱意の強い方が多い印象を受けます。

児童精神科医の資格や学会は?

いくつか児童精神科関連の資格や学会はありますが、専門医機構の制度に乗っている資格はありません。

今ある資格の中では『子どものこころ専門医』が専門医機構の2階建てのサブスペシャリティ専門医を目指しているようなので、これが一番近いかもしれません。

この子どものこころ専門医の母体となった学会は以下の4つがあり、これらが児童精神科の主要な学会ととらえて良いでしょう。

  • 日本児童青年精神医学会
  • 思春期青年期精神医学会
  • 日本小児精神神経学会
  • 日本小児心身医学会

(※太字は学会認定医あり)

上二つが精神科医の多い学会、下二つが小児科医の多い学会という住み分けになっている印象です。

子どものこころ専門医は最近できた制度なので、執筆時点で現役の児童精神科の先生は、上記4つのいずれかの学会に所属し認定医を持っている方が多いです。(私は日本児童青年精神医学会の認定医です。)

今後『子どものこころ専門医』を取るには小児科専門医あるいは精神科専門医をもった上で、指定された施設群で3年以上の研修を行う必要があります。

研修施設群は全国に84群あり、各都道府県に1つずつ程度はあるようです。(子どものこころ専門医機構|研修施設群一覧

やや門戸は狭いと思いますが、ある程度の質が担保されるのが良いところだと思います。興味のある方はぜひ目指してみてください。

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児童精神科医になるには? まとめ

本記事では児童精神科医の働き方や専門資格を説明しました。

児童精神科医は数が少ない一方、患者は増えているため、専門でない小児科医や精神科医が診察をしなければならない場面が多々あると思います。

専門の病院に紹介しようにも初診待ちが数カ月。「しばらくは自分で診るしかないけれど自信がない・・・」という先生は少なくないでしょう。

そのような声を聞くことが多いので、児童精神科医によるスーパーバイズ・ケース相談サービス『こどものこころ相談室青い糸』を始めました。

  • 「診察のちょっとしたアドバイスを聞きたい!」
  • 「院内の症例検討会の相談をしたい・・・」

この他にも児童症例に関するご相談を広くお待ちしております。お気軽にお問合せください。

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本記事が児童精神科に興味をお持ちの精神科医や小児科医、研修医の先生方の参考になれば嬉しいです。

以上、児童精神科医りりでした。

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